| 事務所報 | 発行日 :令和8年8月 発行NO:No57 発行:バリュープラスグループ |
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【2】近年の商標の判例について(その19)
平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。
小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
今回は、令和5年1月~8月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。
1. R5.1.31 知財高裁 令和4(行ケ)10090 商標審決取消請求事件
第43類「ホストクラブにおける飲食物の提供」等を指定役務とする「HEAVEN」の標準文字よりなる出願商標について、第43類「インドカレー・インド料理の提供」を指定役務とする「インドカレーヘブン」及び「Heaven」の文字並びにインド人の図形よりなる引用商標とは類似するとして、拒絶査定不服審判の棄却審決が維持された事例。
引用商標の構成中の「インドカレー」の部分は、提供の対象となる飲食物を示すものであって、自他役務の識別機能を有するものではなく、一方で、引用商標の商標権者のホームページでは「ヘブンで宴会いかがですか」との広告や「ヘブン深作店」との表示をしているから、引用商標の構成から「Heaven」の文字部分を要部として抽出し、他人の商標と比較して商標の類否を判断することは許されるというべきであると判断された。
本件では、指定役務の類否も争点となったが、「ホストクラブ」は、「ホスト(クラブなどの接客係の男性)が主に女性客をもてなす酒場」であって、飲食物の提供が付随する娯楽を提供するものであることに鑑みると、本願商標の指定役務の「ホストクラブにおける飲食物の提供」は、娯楽サービスの提供(接待等)の面ではなく、飲食物の提供の面から検討するのが相当であると判断された。
2. R5.2.22 知財高裁 令和4(行ケ)10093 商標審決取消請求事件
第37類「電気設備設置工事」等を指定役務とする「ハートデンキサポート」の標準文字よりなる出願商標について、第37類「電気設備工事」等を指定役務とする「HEART」の文字よりなる引用商標とは類似するとして、拒絶査定不服審判の棄却審決が維持された事例。
本願商標の構成中の「デンキサポート」は、取引者、需要者に、電気に関する事柄を支え、支持し、支援し、助けることを意味すると理解される場合が少なくなく、実際、電気工事に関する業界においては、「でんきサポート」又は「電気サポート」の語が、電気に関する工事、修理及びトラブル対応といったサービスを表す語として、電力会社のウェブサイトなどで使用されている。したがって、本願商標の構成中の「デンキサポート」という部分は、取引者、需要者により、電気に関する工事、修理及びトラブル対応といったサービスを表す語として認識されるものであって、自他役務識別標識としての機能がないか、又は希薄な部分と認識されるものと認められると判断された。
3. R5.3.9 知財高裁 令和4(行ケ)10122 商標審決取消請求事件
第29類「レトルトパウチされた調理済みカレー、カレーのもと、即席カレー」等を指定商品とする「朔北カレー」の文字よりなる本願商標について、第29類「カレー・シチュー又はスープのもと」等を指定商品とする引用商標「サクホク」とは類似しないとして、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決が取り消された事例。
本願商標は「朔北」と「カレー」からなる結合商標であるところ、「カレー」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じるということはできない一方で、「朔北」については、需要者、取引者をして、「北の方角」又は「北方の地」を表す単語として理解されるにすぎず、具体的な地域を表すものと理解されるものではないから、指定商品との関係において、出所識別標識としての称呼、観念が生じ得るといえる。その上で、本願の要部である「朔北」と引用商標「サクホク」を比較すると、称呼が共通するものの、外観及び観念は明確に異なっているところ、需要者、取引者が「朔北」から引用商標である「サクホク」や引用商標の権利者を想起するというような取引の実情はなく、また、本願商標及び引用商標の指定商品において、需要者、取引者が、専ら商品の称呼のみによって商品を識別し、商品の出所を判別するような実情があるものとも認められず、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るとはいえないから、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないと判断された。
4. R5.5.18 知財高裁 令和4(行ケ)10119 商標審決取消請求事件
特定の称呼及び観念を生じない図形と「GINZA」の文字と「CLEAR」の文字を上下に3段書きしてなる出願商標について、その構成中に「クリア」、「クリアー」又は「CLEAR」(Clear、clear)の文字を含む複数の引用商標とは何れも類似するとして、拒絶査定不服審判の棄却審決が維持された事例。
本願商標の構成中の「GINZA」の文字部分は、東京都中央区南西部にある地名である「銀座」をローマ字で表記したもので日本を代表する繁華街であるところ、被告より提出された証拠及び弁論の全趣旨によると、「銀座」に所在する店舗等については、「GINZA」の文字が商品の販売地、役務の提供場所、ブランドの発祥地等に相当する表示として使用されている例が多数認められるから、本願商標の構成中の「GINZA」の文字部分は、商品の販売地、役務の提供場所、ブランドの発祥地等に相当するとの印象を与えるものにすぎず、当該文字部分からは、出所識別標識としての称呼及び観念が生じないというべきと判断された。一方、本願商標の構成中の「CLEAR」の文字部分は、本願商標の指定商品又は指定役務との関係で、商品の産地、販売地、品質等や役務の提供の場所、質等を具体的に表示するものではないから、本願商標の構成中の「CLEAR」の文字部分は、取引者及び需要者に対して強い訴求力を有するということができると判断された。
5. R5.8.31 知財高裁 令和5(行ケ)10029 商標審決取消請求事件
第43類「死後硬直後のうなぎを用いたうなぎ料理の提供」を指定役とし、縦長の四角囲みの中に筆文字風の書体で「熟成鰻」と書してなる出願商標について、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとして、拒絶査定不服審判の棄却審決が維持された事例。
各種ウェブサイトによれば、「熟成」の語は、食品又はこれに関する役務の分野では、化学変化や酵素等の作用により、風味やうまみをだすとの意味において、魚一般について用いられており、「熟成鰻」又は「熟成うなぎ」との表現も使用されている事実が認められるから、本願商標の「熟成鰻」からは、熟成させた鰻という意味合いが生じ、本願商標に接した取引者・需要者は、通常、その指定役務の質を示すものと認識するにとどまると判断された。また、原告は、本願商標は書家の手になるもので唯一無二のものであり、「熟成鰻」の文字を囲む長方形も角が丸くかすれた部分があるなど独自の部分があるなどと主張したが、何れも「普通に用いられる方法で表示」の域を出るものではないと判断された。
以 上
(令和8年7月作成: 弁理士 山本 進)


