事務所報 発行日 :令和8年8月
発行NO:No57
発行:バリュープラスグループ
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【3】商標権侵害に基づく差止請求に関する判例紹介
   (「大阪高等裁判所令和8年2月13日判決」)

文責:弁護士・弁理士 古莊 宏

【事案の概要】

 本件は、「あわ恋いちご」という標章(以下、「被告標章」という。)の使用が、『恋苺』(商標登録5006976号)という商標権(以下、「原告商標」という。)を、侵害しているかどうか、が問題となった差止請求事件である。
 類否判断において、前提となる本件結合商標(あるいは本件結合標章)について地裁と高裁の考え方が異なったため、結果として結論が全く逆になっているところが興味深い。以下に、紹介する。

 

【大阪地裁】(大阪地方裁判所令和6年(ワ)第5007号事件)

1 判断手法

(1)類否の判断について
 「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情取引の実情を明らかにし得るかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。」

(2)結合商標の分離観察について
 「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。」

 

2 あてはめ

(1)分離観察の可否
 「本件の取引の実情をみると、被告各商品のパッケージには、被告標章のほかに、「徳島県産」とのいちごの産地を示す文字や「徳島県産 阿波のいちご」との文字が付記され、徳島県の伝統芸能である阿波踊りの踊り子や「阿波」と記載された提灯のイラストが目立つ態様で描かれている(省略)ところ、 被告標章の「あわ」の部分につき、漢字ではなく、平仮名表記とはいえ、需要者に対し、地域名称である「阿波」を意味し、産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえるから、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され 「恋いちご」部分を抽出して、本件商標と比較検討することができるというべきである。」

(2)原告商標と被告標章の分離部分の類否の検討
 「 本件商標と被告標章の「恋いちご」部分を対比すると、 外観は(省略)のとおりであり、 冒頭の「恋」の漢字において共通する一方、書体や「いちご」部分が漢字であるか平仮名であるかの違いこそあるものの、呼称としては、本件商標が「レンバイ」「レンマイ」「コイイチゴ」であるのに対し、被告標章の「恋いちご」部分も「コイイチゴ」であって、 「コイイチゴ」の称呼において同一である。」
 「また、 観念についても、「恋苺」及び「恋いちご」は造語であり、「一緒に生活できない人に強くひかれて切なく思うこと。思慕の情、恋慕、恋愛」(前掲広辞苑)を意味する「恋」に果物の「いちご」を組み合わせることによって、恋愛のように強くひかれるいちごとの観念が生じ、いずれの観念も同一である。そして、取引の実情として、被告各商品は、被告標章を付したいちご同梱の商品であるから本件商標の指定商品と同一である一方、誤認混同の回避につながるような特段の事情などがあるわけでもないことも考慮すると、被告標章の「恋いちご」部分に接した需要者(商品の取引者や消費者)は、本件商標と出所を誤認混同するおそれがあると認められ、 両者は全体として類似するといえる。」

 (中略)

(3)原告商標と被告標章の類否の検討
 「このような分離観察のもと、被告標章から生じる称呼、観念のうちの1つについて、本件商標との類似性が肯定される以上、 被告標章は本件商標と類似するものといえるのであって・・・(中略)。」

 

【大阪高裁】(大阪高等裁判所令和7年(ネ)第1750号事件)

1 判断手法

☞大阪地裁と全く同じである。

 

2 あてはめ

(1)被告標章の「あわ」部分について
 「被控訴人(※1審原告)は、被告標章の冒頭に付された「あわ」の文字部分は、旧国名としての地名である「阿波」を想起させるもので、商品の産地又は販売地を意味するにすぎないため出所識別機能を有さず、「恋いちご」の文字部分が出所識別機能を担う要部になると主張する。」
 「確かに、被告各商品のパッケージの表面のデザインからは、そこに付された被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるといえる。
 しかし、被告標章のみで観察した場合、 「あわ」の文字からは、「阿波」のみならず「泡」、「粟」、「安房」、 「淡」も想起され得る
 「被告標章を付された上記デザインのパッケージがいちごを同梱した被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情を考慮すると、被告標章の構成中の 「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であるということになるから、その部分は、商品を普通に記述しているにすぎないと理解され、 その余の部分である「あわ恋」という言葉は、既存の言葉に「淡い恋心」、「淡い恋」などがあり、また、被告標章の外観が柔らかな印象が与えられるようデザインされていることと相まって「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されるものと考えられるから、前説示のとおり、「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったとはいえないことも考え併せると、 被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じているというべき」

(2)原告商標と被告標章の類否の検討
「以上を踏まえて本件商標と被告標章の類否を判断すると、本件商標は、漢字を縦書きしているのに対し、被告標章は「恋」以外を平仮名で表記し、やや丸みのあるPOP体風書体の文字を等間隔にやや円弧状に1行かつ一連で横書きしたものであって外観において明らかに異なり、また本件商標は「コイイチゴ」の称呼を生ずるのに対し、被告標章は「アワコイイチゴ」の称呼を生ずるものであって重なる部分はあるものの、文字数が異なり称呼が類似しているとはいえない。そして、 いずれも果実の名称であるいちごに、本来、味覚を表現しない心理、感情状態の語を組み合わせて、当該果実の味覚を表現するという手法で造られた言葉であるが、「恋」と「淡い恋」で違う観念が想起されるから、これといちごを組み合わせることで生ずる観念も類似するとはいえず、したがって、 本件商標と被告標章は全体として類似するということはできない。」

 

【考察】

1 被告標章を「あわ+恋いちご」の結合とみるか、それとも「あわ恋+いちご」の結合とみるかで、地裁と高裁で結論が分かれてしまった。特に、「あわ」部分を“阿波“という地名に限定するのか、それとも“淡い“という意味も広く持たせるのかで判断が分かれたといえる。
2 ここで、「いちご」自体は普通名称であり、また本件でパック販売している商品が「いちご」である取引事情も考えると、高裁の判断の方が妥当であるように思料される。

 

[原告商標]

 

[被告標章]

[被告標章]

(令和8年8月作成: 弁護士・弁理士 古莊 宏)


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