| 事務所報 | 発行日 :令和8年1月 発行NO:No56 発行:バリュープラスグループ |
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【2】近年の商標の判例について(その18)
平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。
小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
今回は、令和4年5月~12月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。
1. R4.5.31 知財高裁 令和3(行ケ)10154 商標審決取消請求事件
上段に「一升パン」の文字を、下段に上段よりも小さな「いっしょうパン」の文字を配してなり、第30類「パン」等を指定商品とする本件商標は、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標等には該当しないとして、無効審判の棄却審決が維持された事例。
「升」の語は、尺貫法における容量の単位であって、一升は1.80391リットルを意味し、「一升」の語は、「升」で量った一つ分の容積の意味を有するものと認められるが、「一升パン」の語それ自体は、辞書等に採録されている語ではないし、パンの数量を表す単位として一般に用いられるのは「個」、「枚」、「グラム」又は「斤」等であって、「一升」の語は、米や日本酒、醤油の容量を表す単位として用いられるものの、パンの数量を表す単位として用いられるものとはいえない。そうすると、本件商標は、通常は組み合わされることのない「一升」の語と「パン」の語とが組み合わされ、まとまりよく一体的に表されたものであるといえることからすれば、造語とみるのが相当であると判断された。
2. R4.7.14 知財高裁 令和3(行ケ)10109 商標審決取消請求事件
第30類「菓子」等を指定商品とし、「ザリッチチロリアン」の文字を標準文字で表してなる本件商標は、「チロリアン」の文字を毛筆風で横書きに書してなる引用商標に類似するとして、無効審判の棄却審決が取り消された事例。
本件商標は、「ザ」の文字部分が英語の定冠詞「the」の片仮名表記、「リッチ」の文字部分が「裕福なさま」「食物、料理の味わいや香りが豊かで濃いさま」といった意味を有する語と認められるところ、標章「チロリアン」は、本件商標の登録審決日当時、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたことに照らすと、本件商標がその指定商品中の「菓子」に使用された場合には、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分は、菓子のブランド名を示すものとして注意を惹き、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものと認められるから、本件商標から「チロリアン」の文字部分を要部として抽出の上、これと引用商標とを比較して類否を判断することは許されるというべきと判断された。
3. R4.9.14 知財高裁 令和4(行ケ)10034 商標審決取消請求事件
「スマホ修理王」の文字よりなり、第37類「電話機械器具の修理又は保守」を指定役務とする本件商標について、出願の経緯や目的が、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く事情があるから商標法4条1項7号に該当するとして、無効審判の認容審決が維持された事例。
原告は、被告との本件フランチャイズ契約が解除され、WEBサイト等から「XPERIA 修理王」および「修理王」の名称を削除するよう求められたその4日後に本件商標の登録出願に及び、本件商標の設定登録を受けると、フランチャイザーであった被告に対し、被告が展開するフランチャイズ事業で「スマホ修理王」の商標を使用することが本件商標の商標権侵害に当たる旨を警告し、本件商標の商標権の買取価格を含め合計2670万円のライセンス契約を提案していることが認められる。こうした事実経過に鑑みれば、本件商標の登録出願は、元フランチャイジーである原告が、これまでと同様の名称を使用することにより被告の顧客吸引力を利用し続けようとしたものと評価せざるを得ず、元フランチャイジーとして遵守すべき信義誠実の原則に大きく反するものであるのみならず、「スマホ修理王」の名称でフランチャイズ事業を営んでいる被告がその名称に係る商標登録を経ていないことを奇貨として、被告によるフランチャイズ事業を妨害する加害目的又は本件商標を高額で被告に買い取らせる不当な目的で行われたものというべきであるから、本件商標は、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くもので、公の秩序に反するものであると判断された。
4. R4.10.31 知財高裁 令和4(行ケ)10041 商標審決取消請求事件
第35類「菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等を指定役務とし、赤色の御守袋の図形の中央に「御守」の文字を縦書きしてなる本願商標は、第30類「菓子」等を指定商品とし、「お守」の文字よりなる引用商標とは類似するとして、拒絶査定不服審判の棄却審決が維持された事例。
原告は、本願商標の指定役務である「菓子の小売」等は、引用商標の指定商品「菓子」等とは類似しないと主張したが、ある製品の製造業者が当該製品の販売場を置くとともに、顧客に対する当該製品の品揃え・陳列、接客等のサービスを提供するなどして小売役務の提供をして収益を上げることは、特殊事情がない限りは、通常行われることと推認されるところ、本件証拠からは、引用商標の指定商品について、その製造・販売と小売等役務の提供が別事業者によって行われていることが通常であるとするような特殊事情は認められず、かえって、「菓子、パン」について、自社工場を持つ営業主がそれら製品を自社店舗で販売するなど、その製造販売と小売等役務が同一営業主によって行われることがよくある実情が認められるから、原告の主張は採用できないと判断された。
5. R4.12.26 知財高裁 令和4(行ケ)10067 商標登録取消決定取消請求事件
「OLYMBEER」の欧文字と「オリンビアー」の片仮名を二段に書してなり、第32類「ビール」等を指定商品とする本件商標は、引用標章「OLYMPIAD」との関係で商標法4条1項6号には該当しないとして、商標登録異議申立ての取消決定が取り消された事例。
各種辞書においてオリンピック競技大会と同義との掲載がある引用標章は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章と認められるが、本件商標の設定登録日において、商標法4条1項6号が規定する著名性を有すると認めることについては疑義が残るといわざるを得ないことに加え、本件商標より生じる「オリンビアー」の称呼と引用標章から生じる「オリンピアード」の称呼は、「オリン」の部分と「アー」の部分を共通にするものの、本件商標では濁音「ビ」が、引用標章では半濁音「ピ」があり、さらに、語末が、本件商標が長く伸びる母音で終わるのに対し、引用標章が濁音の「ド」で終わるという点で相違するから、本件商標と引用標章は外観のみならず称呼においても相紛れるおそれがなく、両者は類似するものではないと判断された。
以 上
(令和7年12月作成: 弁理士 山本 進)


