事務所報 | 発行日 :令和7年1月 発行NO:No54 発行:バリュープラスグループ |
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【2】近年の商標の判例について(その16)
平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。
小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
今回は、令和3年8月~令和3年12月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。
1. R3.8.30 知財高裁 令和2(行ケ)10126 商標審決取消請求事件
五線譜に表された音楽的要素及び「マツモトキヨシ」の片仮名で記載された歌詞の言語的要素からなる音商標について、商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含む商標に当たらないとして、拒絶査定不服審判の審決が取り消された事例。
音商標を構成する音が一般に人の氏名を指し示すものとして認識される場合、当該音商標は商標法4条1項8号の「他人の氏名」を含む商標として、承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないのが原則であるが、本願商標については、その取引の実情に照らせば、その商標登録出願時において当該音に接した者が一般人の氏名を連想、想起するものとは認められないから、本願商標は、同号の「他人の氏名」を含む商標に当たらないと判断された。
2. R3.9.21 知財高裁 令和3(行ケ)10029 商標審決取消請求事件
第5類「薬剤」を指定商品とする「HIRUDOMILD」の文字からなる本件商標について、引用商標「Hirudoid」と類似するとして、無効審判の審決が取り消された事例。
本件商標については、前半の「HIRUDO」が一種の造語と理解され、対応する和名の「ヒルド」は長期間にわたって原告商品の外には薬剤の名称には使用されておらず、需要者に対し、商品の出所識別標識として強い印象を与えるのに対し、後半の「MILD」は自他識別機能が極めて弱いというべきで、「HIRUDO」の文字のみを抽出して引用商標と比較して類否を判断することも許されると判断された。加えて、原告が提出した各書証によれば、本件商標の出願日及び査定日時点において、需要者の間では、「ヒルド」やこれに対応する欧文字の「HIRUDO」は、「ヒルドイド」及び「HIRUDOID」を意味する語として認識されていたと認め得る事情があるから、本願商標と引用商標は、いずれも「ヘパリン類似物質を配合した保湿剤であるヒルドイド」を想起させるということができ、類似する商標と判断された。
3. R3.9.15 知財高裁 令和3(行ケ)10047 商標審決取消請求事件
第30類「米」を指定商品とする本件登録商標「福米」について、通常使用権者による使用が認められるとして、不使用取消審判の審決が取り消された事例。
原告は、桂ヶ丘開発株式会社の代表取締役に在任中に、桂ヶ丘開発に対し、原告が生産した米を販売し、桂ヶ丘開発は、要証期間内に、ゴルフ場の利用者に対し、原告から購入した米を5kg入りの米袋に小分けし、本件登録商標と社会通念上同一と認められる標章が表示された本件ステッカーを貼付して販売していた事実が認められる。そして、原告は、本件ステッカーの作成に関与しており、本件ステッカーが貼付された本件商品を桂ヶ丘開発が販売することを承知していたものと認められるから、これらの事実を総合すると、原告は、桂ヶ丘開発に対し、本件商標の使用を黙示的に許諾していたものと認めるのが相当であって、桂ヶ丘開発は、上記販売当時、本件商標の通常使用権者であったものと認められると判断された。
4. R3.12.15 知財高裁 令和2(行ケ)10100 商標審決取消請求事件
米国登録商標と類似する本件商標が、正当な理由がないのに、当該米国商標権を有する者の承諾を得ないでその代理人であった者により出願されたものとはいえないとして、本件商標の一部を取り消した商標法53条の2に基づく不正使用取消審判の審決が取り消された事例。
米国法人である被告は、平成16年に特例有限会社である原告の取締役Aとの間で合弁契約(本件原契約)を締結し、平成20年にその修正契約(本件修正契約)を締結した。このうち、本件原契約は、審判段階では証拠として提出されず、本件訴訟において初めて証拠として提出された。本判決は、本件修正契約は、商標権を含む知的財産権が等しく50%の割合で被告とAの共有に属するとする本件原契約の定めを変更するものではないと解する余地があるから、被告とAとの契約において、本件商標権を含む知的財産権について被告が全ての権利を保持するとは言い切れず、本件原契約との関係における本件修正契約の解釈について言及することなく被告とAとの契約において知的財産権は被告が全て有すると審決が判断したことは、誤りであると判断した。
5. R3.12.20 知財高裁 令和3(行ケ)10078 商標審決取消請求事件
「ベガス」の文字よりなり、第41類「娯楽施設の提供」等を指定役務とする本件商標について、商標法3条1項3号に該当するとはいえないとして、無効審判の請求を棄却した審決が維持された事例。
「ベガス」の語が、ギャンブル等の娯楽施設があることで有名な米国ネバダ州の都市「ラスベガス(Las Vegas)」の略称として、広く一般に知られているか否かが争点となった。本判決は、全国紙もしくはウェブサイトによれば、「ベガス」が「ラスベガス」の略称として用いられた例が相当数あることを認めたものの、これらの証拠を子細にみると、そのほとんどは「ベガス」の語が見出しにのみ用いられ、記事本文中では「ベガス」の語ではなく「ラスベガス」の語が用いられている点、ほぼ全ての記事が本文中に「ベガス」の語が米国内の地名であることを推知させる記載があるか、あるいは記事内容が賭博に関する事実を報道する文脈で用いられている点に着目し、本件証拠からは、ラスベガスの略称を意味するために「ベガス」の語を単独で用いることが我が国で定着しているものとは認め難く、「ベガス」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとまでは認め得ないと判断された。
以 上
(令和6年12月作成: 弁理士 山本 進)