事務所報 発行日 :令和6年8月
発行NO:No53
発行:バリュープラスグループ
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【2】近年の商標の判例について(その15)

 平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。
 小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
 旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で15回目となりますが、今回は、令和3年2月~令和3年7月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

1. R3.2.25 知財高裁 令和2(行ケ)10084 商標審決取消請求事件

 第25類「通気機能を備えた作業服」等を指定商品とし「空調服」の文字を標準文字で表してなる商標出願につき、商標法3条2項該当性を認め、商標登録を拒絶した拒絶査定不服審判の審決が取り消された事例。
 原告が製造・販売するファン付きの衣服である「空調服」は、平成27年頃までに原告の商品として需要者・取引者に広く知られるに至っていたものと認められ、その後市場に参入した他社は「ファン付き作業服」などの一般的な用語を用いていること、多くの業者の参入があっても平成30年及び令和元年の時点においても原告の「空調服」は電動ファン(Electric Fan)付きウェアの3分の1程度のシェアを占めていることなどを考慮すると、「空調服」は原告らの商品の出所を示すという機能を失うことなく、その認知度を高めていったものと認めることができると判断された。

2. R3.3.30 知財高裁 令和1(行ケ)10133 商標審決取消請求事件

 不使用取消審判の審判請求書を商標権設定登録の日から3年にあたる日に郵送により発送し、翌日に特許庁に到達した事案について、3年経過後の審判請求と認められるから不適法な点はないとして、審判請求を却下した審決が取り消された事例。
 商標法77条2項が準用する特許法19条は、所定の期間内に特許庁に提出されるべき書類について、当事者の居住地と特許庁との間の地理的間隔の差異に基づく不平等を排除するために書類の発信の日をもって特許庁に到達した日とみなすこととしたものである。商標法50条1項については、所定の期間内に審判請求をすべきことを定めたものではないから、特許法19条の規定は準用されず、特許庁に審判請求書が到達した日を基準としてその効力を判断するのが相当である(民法97条1項の到達主義)。そうすると、本件審判の請求書は、本件商標の設定登録の日から3年が経過した日に特許庁に到達しているから、本件審判の請求を商標法50条1項の規定により不適法ということはできないと判断された。

3. R3.4.27 知財高裁 令和2(行ケ)10125 商標審決取消請求事件

 第45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」等を指定役務とする「六本木通り特許事務所」の文字よりなる商標登録出願について、商標法3条1項6号に該当するとして、商標登録を拒絶した拒絶査定不服審判の審決が維持された事例。
 「○○通り」と「法律事務所」とを組み合わせた構成をとる商標は多数の使用事例が認められ、法律事務所は特許事務所と同様に本願商標の指定役務を提供し得る事務所であるから、「法律事務所」を「特許事務所」と言い換えて、「○○通り」と「特許事務所」との組合せとしたとしても、格別新規なものとは認識し得ず、その構成に意外性もない。加えて、本願商標の構成中の「六本木通り」の文字は、35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれている道路の通称名であり、「特許事務所」は本願商標の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称であるから、この両語の組合せから新規な意外性を生じるということもできないと判断された。

4. R3.6.16 知財高裁 令和2(行ケ)10148 商標審決取消請求事件

 第35類「洋服・コート・セーター類・ワイシャツ類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下、本願指定役務という)と、第35類「帽子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下、引用指定役務という)は、類似する役務であるとして、商標登録を拒絶した審決が維持された事例。
 指定役務の類否が争点となったが、本願指定役務と引用指定役務は、衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とする点において共通するほか、役務を提供する手段、目的及び業種が共通し、役務を提供する場所が共通する場合があって、需要者の範囲が一致するものといえるから、これらの役務に同一又は類似の商標が使用される場合には、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められると判断された。

5. R3.7.19 知財高裁 令和3(行ケ)10003 商標審決取消請求事件

 被告が有する登録商標について、被告又は通常使用権者が、要証期間内に使用していたことを証明したものと認めることはできないとして、不使用取消審判の請求不成立の審決を取り消した事例。
 本件ウェブページを印刷した書証は、要証期間経過後の本件審判請求後に印刷されたものであるから、これが存在するからといって、要証期間内に本件ウェブページに本件バナー及びその画像が表示されていたものと認めることはできず、本件バナーのアップロード時のログ等の電子記録は提出されていないのであるから、平成28年頃、本件ウェブページに本件バナー及びその画像がアップロードされて掲載されたことを客観的に裏付ける証拠はないと判断された。

以 上

(令和6年7月作成: 弁理士 山本 進)


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