事務所報 発行日 :令和6年1月
発行NO:No52
発行:バリュープラスグループ
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【4】調査報告と出願

文責:特許商標部 竹内 幹晴

 特許及び実用新案、意匠、商標は、出願する前あるいは出願はせずとも実施又は使用する前に、先行する出願や登録(権利)が存在するか否かを調査することがありますが、この調査という業務は、依頼者には「完全ではない」(もちろんキメ細かく調べますが…)とご了承いただくものの、すごく気を遣います。

 目の粗いザルのような調査(類似あるいは一致の登録を探知できない調査)であると、依頼者の製品が他社(他者)の権利を侵害する可能性が高くなりますし、依頼者が出願しても審査のうえ拒絶される可能性が高くなります。ですから調査を含めて報告書の作成には、神経を擦り減らします。

 調査報告書には、検索式とその検索式により抽出された(ヒットした)案件を添付します。中には検索式と抽出案件(の概要がわかる一覧)を調査報告書として納品して作業完了とするところもあります。言ってみれば、最終的な判断責任を依頼者に持っていただく感じですね。もっとも(結構安くしかも短時間で納品されるよう)「調査」を依頼されている場合には、そのような納品形式に異を唱えるわけではなく、むしろ肯定感を持っています。

 しかし、弊所で実践しているのは、侵害可能性、出願して登録される可能性をこちらで判断して明記する形式です。この判断が、依頼者の満足度向上にもつながっているように思います(担当する依頼者からそう聞いたことがあります…)。調査の場合、侵害可能性は出願時の新規性判断に通じるものがありますが、出願して登録されるか否かについての見立てに、調査対象のさらに根幹部分に限りますが、特実ならば進歩性、意匠ならば創作非容易性、商標ならば類否・顕著性のグレーゾーンに関する判断を伴っている調査は、自分で言うのは憚られますが、他所ではなかなか無い(全く無いわけではないです)調査だと思っています。

 また、上記では、調査が依頼者の満足度向上に…と記しましたが、出願書類を作成する実務担当者にも多大なメリットがあります。ここよりは、タイトル通り、出願という部分で筆を進めます。調査報告(書)は、出願書類作成のうえで貴重なソースになっており、調査を行っておくことでスムーズな案件対応、書類作成が可能となります。

 まず、調査結果から有効な権利が得られそうにないと判断していれば、出願を断念していただくか、もうひと捻りしていただくことを提案できます。ひと昔前、いや、ふた昔前、うーん、さらに前かな…では、実務は「代書屋」という感覚でしたが、さすがに伝え聞いた事柄を書類に整えるだけでは、つまり拒絶される内容であっても依頼を受け付けて、伝え聞いた事だけを二つ返事で書類に整えているだけでは、依頼者の信用を得られず、いわゆるリピーターとなっていただけないことも多いようです。もちろん、実務担当者はその内容の発明者ではないので、代書に徹することは基本中の基本ですが、依頼者は権利化がゴールなのですから、ゴールに到達できない内容に出願費用を使わせるのは依頼者にとって無駄な出費と言わざるを得ません。また、ひと捻りすれば権利化されるかも…というならば、依頼者のひと捻りに付き合ってもよいし、依頼者がひと捻りしないというならば出願を断念していただくという選択肢も可能です。このように、調査を行っておくことで、その案件の立ち位置が明確ではないにせよ、だいたい把握できますので、拒絶などの対応も割と容易となり、スムーズな案件対応ができます。

 そして、調査を行っておけば、具体的には、調査報告をしたうえ、依頼があり、依頼を承った案件は、ある一定のレベルで権利化の道筋というか光明といいますか、シナリオが見えていますから、書類作成もまたスムーズとなります。依頼者も、上記同様、その案件の立ち位置がだいたい把握できているので、出願書類の内容の確認が容易となります。逆に、調査結果からはとても権利化できない内容であるにも、とにかく出願してほしいと依頼された場合には、出願書類の作成がめちゃくちゃ大変というようなことも稀にあります。

 今回は、調査の重要性と、依頼・案件・書類作成に対する心構え見たいなことを、思いつくまま書きました。長々?と、お読みいただきありがとうございました。

 それでは、また…

(令和5年12月作成: 特許商標部 竹内 幹晴)


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