事務所報 発行日 :令和6年1月
発行NO:No52
発行:バリュープラスグループ
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【2】近年の商標の判例について(その14)

文責:弁理士 山本 進

 平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。
 小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
 旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で14回目となりますが、今回は、令和2年9月~令和3年2月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

1. R2.9.2 知財高裁 令和1(行ケ)10166 商標審決取消請求事件

 「Tuche」の文字よりなり第25類「被服」等を指定商品とし「ストッキング」等について使用されている原登録商標に基づく防護標章登録出願について、商標法第64条第1項に規定する要件を具備するものではないとして、商標登録を拒絶した拒絶査定不服審判の審決が維持された事例。
 原登録商標を使用した商品は19年に亘る販売実績があるものの、その売上高は毎年減少傾向にあり、市場シェアも減少傾向にある等の事情があり、また、原登録商標は記憶や印象に強く残りやすいものとは直ちには言い得ないことから、本件審決時において、大半の需要者が原登録商標を原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識しているものとはいえず、原登録商標に係る需要者の認識の程度は、著名の程度に至っているものと認めることはできないと判断された。

2. R2.10.13 知財高裁 令和2(行ケ)10017 商標審決取消請求事件

 標準文字で「空調風神服」と書してなる登録商標の商標権者が、「空調」と「服」の部分を「風神」の部分の約2倍程度の太字とした横書きの商標を使用する行為は、「空調服」の文字よりなる引用商標との関係で、商標法51条1項に該当するものではないとして、不正使用取消審判の請求を不成立とした審決が維持された事例。
 「空調服」の語は、ファンを備えた作業服一般を示すものとして記述的に用いられ、原告以外の商品のカタログでも用いられている事実からすれば、原告が引用する商標は、独創性の程度が高いとはいえず、原告の出所に係る商品を示すものとして周知著名であったともいえない。そして、本件使用商標と引用商標は類似せず、かえって相違するものであることからすれば、両商標を同一の商品に使用した場合に,取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、出所の混同を生ずるとはいい難いと判断された。

3. R2.11.4 知財高裁 令和2(行ケ)10055 商標審決取消請求事件

 被告の登録商標「織部流」について、原告の周知商標の役務又はこれに類似する役務について使用をするものであるとして、商標法4条1項10号該当性を認め、無効審判の請求を一部不成立とした審決の請求不成立部分の一部が取り消された事例。
 本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「古田織部を祖とする茶道の流派」を示す未登録の引用商標「織部流」は、少なくとも「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」についての原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であったと認められることに加え、「図書及び記録の供覧」、「図書の貸与」及び「書籍の制作」の役務についても使用されており、それらに関しても原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であったと認められるから、これらの役務およびこれらの役務と類似関係にある「セミナーの企画・運営又は開催」、「電子出版物の提供」、「図書及び記録の供覧」、「図書の貸与」、「書籍の制作」及び「興行の企画・運営又は開催」の各役務についても、商標法4条1項10号に該当するものとして本件商標の登録を無効とすべきであると判断された。

4. R2.12.15 知財高裁 令和2(行ケ)10076 商標審決取消請求事件

 第30類「焼肉のたれ」を指定商品とし、商品を封入した容器の胴部中央よりやや上から首部にかけて配された立体的形状からなる位置商標の商標登録出願について、商標法3条1項3号に該当し、同条2項には該当しないとして、商標登録を拒絶した拒絶査定不服審判の審決が維持された事例。
 テレビCMにおいて、本願商標使用商品の容器表面の本願商標を構成する立体的形状が視認できるように映し出される時間は短いものと認められるから、テレビCMによって本願商標を構成する立体的形状が需要者に印象付けられたとは認められないし、また、原告の宣伝広告において、本願商標を構成する立体的形状を商品の出所を表示する標識として強く印象付けるような告知や表示が存在した事実も認められないから、原告の宣伝広告によって本願商標を構成する立体的形状が、出所を識別させる標識として認識されるようになったと認めることはできないと判断された。

5. R3.2.3 知財高裁 令和2(行ケ)10091 商標審決取消請求事件

 「ベガス」の文字よりなる本件商標登録について、商標権者が指定役務「娯楽施設の提供」に関する広告に本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたことを証明したものと認め、不使用取消審判の請求認容審決が取り消された事例。
 本件折込チラシは「パチンコ・スロット」の遊技機の提供の役務に係るチラシであって、同チラシ中の「ベガス北仙台店」の文字よりなる標章は、「ベガス」の文字部分が「ラスベガス」を想起させる造語と認められる一方で、「北仙台店」の文字部分は「北仙台」の地域にある店舗の意味合いを有し、単に役務の提供の場所を表示するものであることからすると、「ベガス北仙台店」の標章は、「ベガス」の文字部分のみから役務の出所識別標識としての機能を有するものであって、本件登録商標と社会通念上同一の商標と認められると判断された。

(令和5年12月作成: 弁理士 山本 進)


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