事務所報 発行日 :令和5年8月
発行NO:No51
発行:バリュープラスグループ
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【2】近年の商標の判例について(その13)

文責:弁理士 山本 進

 平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。
 小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
 旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で13回目となりますが、今回は、令和2年3月~令和2年8月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

1. R2.3.11 知財高裁 令和1(行ケ)10111 商標審決取消請求事件

 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/314/089314_hanrei.pdf

 第30類「最中」を指定商品とする「総本家駿河屋」の文字よりなる本件商標は、「駿河屋」の文字よりなる引用商標と類似するとして、無効審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。
 「駿河屋」の商標は、本件商標の登録査定日当時、羊羹等の和菓子の取引者、需要者の間において、近畿地方を中心に旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に、羊羹)を表示するブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められるのに対し、「総本家」の語は、「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味する普通名詞であることに照らすと、「総本家」の文字部分と「駿河屋」の文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないと判断された。

2. R2.5.20 知財高裁 令和1(行ケ)10151 商標審決取消請求事件

 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/516/089516_hanrei.pdf

 第9類「コンピュータソフトウェア」等を指定商品とする「CORE ML」の文字よりなる出願商標は、「CORE」の文字よりなる引用商標とは類似しないとして、拒絶査定不服審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。
 本願商標は、後半部の「ML」の語が、「マシーンラーニング(Machine Learning)」、「メーリングリスト(mailing list)」、「マークアップ言語(Markup Language)」等の略語を意味するとはいえず、何らかの観念が生じると認めることはできないから、「ML」の部分が「CORE」の部分に比べて特段出所識別標識としての機能が弱いということはできず、本願商標は、称呼においても一連に発音されるものと認められると判断された。

3. R2.6.23 知財高裁 令和1(行ケ)10147 商標審決取消請求事件

 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/570/089570_hanrei.pdf

 第7類「油圧ショベル」を指定商品とし、オレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)の色彩のみからなる商標について、商標法3条1項3号に該当するとして登録を拒絶した審決が維持された事例。
 商標法3条2項の適否が争点となったが、輪郭のないオレンジ色に係る色彩商標が油圧ショベルに長期間使用されていたとしても、①建設現場等において一般的に採択される色彩であること、②需要者が共通する建設機械、農機、林業用機械の分野において本願商標に類似する色彩を使用する事業者が相当数存在していること、③油圧ショベルなど建設機械の取引においては、製品の機能や信頼性が検討され、製品を選択し購入する際に車体色の色彩が果たす役割が大きいとはいえないこと、④色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるべき公益的要請もあること、などの事情が認められる下では、使用をされた結果自他商品識別力を獲得し、商標法3条2項により商標登録が認められるべきものとはいえないと判断された。

4. R2.7.29 知財高裁 令和2(行ケ)10006 商標審決取消請求事件

 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/614/089614_hanrei.pdf

 「TAKAHIROMIYASHITA TheSoloist.」の文字を標準文字で表してなる出願商標について、他人の承諾が得られていないから商標法4条1項8号に該当するとして、登録を拒絶した拒絶査定不服審判の審決が維持された事例。
 本件においては「ミヤシタタカヒロ」なる人物は、ハローページに掲載されている一般の人であったが、商標法4条1項8号は、自らの承諾なしにその氏名等を商標に使われることがないという人格的利益を保護するものであって(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁等)、氏名については著名でなくとも当然にその主体である他人を指すと解釈されることから、当該他人の氏名の著名性や希少性等が要件となることなく、同号が適用されると判断された。

5. R2.8.27 知財高裁 令和1(行ケ)10143 商標審決取消請求事件

 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/660/089660_hanrei.pdf

 第21類「くし」を指定商品とし、複数本の櫛歯を有するくし本体の長辺方向の中央を除いた左右部分に、それぞれ一定間隔で横並びに配された楕円型にくりぬかれた貫通孔各7個を組み合わせた図形からなる位置商標の出願について、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないとして、登録を拒絶した拒絶査定不服審判の審決が維持された事例。
 原告が提出した証拠によれば、原告が販売している櫛には本願商標の構成とは異なる数の貫通孔を空けた類似商品も少なからず存在するから、美容師・理容師が「穴のあいた櫛」であることを識別標識としている可能性はあるとしても、本願商標の構成である中央部を除いた左右に7つずつ空けられた貫通孔によって本願商標の構成そのものが自他商品の識別標識となっていると断定できるかどうかには疑問があることに加え、原告が提出した証拠からは、一般消費者に対して識別力を獲得するに至っているとまで認定することはできないと判断された。

(令和5年7月作成: 弁理士 山本 進)


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