事務所報 | 発行日 :令和5年8月 発行NO:No51 発行:バリュープラスグループ |
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【3】請負の場面における使用者責任の有無について
文責:弁護士・弁理士 古莊 宏
1. はじめに
請負人が発生させた不法行為(民法709条)に対して、注文者が使用者責任(715条1項)を負うことがあるか、問題となることがある。また、下請会社が発生させた不法行為(709条)に対して、元請会社等が使用者責任(715条1項)を負うことがあるかについても、問題となることがある。
なぜならば、被害者である依頼者が、直接の不法行為をなした加害者のみならず、請負契約の関係にあろうとも、より資力のある者(あるいは会社)に対して、使用者責任(715条1項)を追及できないかという点において、実益があるといえるからである。
以下に、参考となる判例を調査して整理したので、ご紹介する。
2. 自転車便の請負人が発生させた交通事故のケース
【東京地裁平成23年(ワ)第28819号・同地裁平成24年(ワ)第34508号】
[事案の概要] 自転車便の請負人(訴外A)が、自転車便業者であるYの事務所への出勤途上にて、横断歩道を歩行していたX1と衝突した。この交通事故について、X1及びX1の親族であるX2、X3が、Yに対して、使用者責任(715条1項)に基づく損害賠償を求めた事案である。
[判旨の要旨]
(1)Yの使用者性
訴外Aが、自転車便の運転手として稼働する際に、Yから借りた無線機を常時携帯していたこと、主として無線機によってYから指示・確認を受けて荷物の受取先や配送先に赴いていたこと、配送の無い時間帯においても原則として無線の繫がる場所で待機していたこと、訴外Aは稼働日毎にYの事務所で無線機を借り、稼働後にこれを返却していたこと等から、実質的な指揮命令関係があるとして、使用者性を認めている。
(2)Yの事業執行性
訴外Aが、自転車便の運転手として業務に必要不可欠な無線機を借り受けるためにYの事務所へ向かう途中で発生した事故であること、Yは、訴外Aから自らの自転車を使用して自転車便の運転手として稼働することを容認し、Yの事務所の往復に際しても、これを使用することを容認していたこと、訴外Aが自らの自転車を購入後、Yにおいて訴外Aに対して自転車便に使用する自転車を用意することがなくなり、訴外Aの自転車の整備等に関して適宜の便宜を図っていたこと等から、Yが訴外Aによる自転車の使用により利益を享受していたとして、事業執行性を求めている。
3. (第二次)下請会社が発生させた安全配慮義務違反による不法行為のケース
【東京高裁平成28年(ネ)第5367号】
[事案の概要] 独立行政法人が発注した団地の樹木の剪定等に、第二次下請会社Y1の従業員として従事していたX1が、高さ約5メートルの樹木から転落して受傷し、重篤な後遺障害が生じた。本件は、直接の使用者である第二次下請会社Y1とその代表者Y2のほか、第一次下請会社Y4,元請会社Y3も相手にして、安全配慮義務違反(債務不履行・不法行為)等を理由とする損害賠償を求めた事案である。
なお、元請会社Y3および第一次下請会社Y4を通じて、X1にも安全帯の使用を指示していたが、X1が当時着用していた安全帯は「一丁掛け」といわれる安全性の徹底に欠けたものであったこと、かつ、X1は本件事故直前には安全帯のひもを枝に掛けて使用することなく作業を行っていたことから、X1は転落したものであった。当時の安全帯には、「二丁掛け」といわれる、樹上での移動時にも、常時一方のひもは枝に掛けているタイプのものも存在はしていたものの、作業効率が落ちる等の理由から、樹木の剪定作業では、「一丁掛け」が一般的に使用されていたようであった。
[判旨の抜粋]
(1)第一次下請会社Y4の(不法行為責任または)使用者責任
被控訴人Y4社は、安全衛生事項に関しては、元請会社である被控訴人Y3社の指示に基づき、下請会社である被控訴人Y1社に対し、具体的でかつ厳守を求める指示を行っていたものであり、この指示は、被控訴人Y1社を通じてその作業員に対しても及んでいたことからすれば、被控訴人Y4社と被控訴人Y1社の従業員との間には、特別な社会的接触の関係を肯定するに足りる指揮監督関係があったものということができる。そして、本件作業においては、安全帯、取り分け二丁掛けの安全帯の着用とその徹底が求められるべきであったことは、すでに説示したとおりであるところ、被控訴人Y4社は、使用する安全帯は一丁掛けのものでも安全確保は十分であるとの誤った認識の下に、その使用の徹底を被控訴人Y1社、更にはその従業員である控訴人X1に指示していたということができるから、被控訴人Y4社は、控訴人X1に対する安全配慮義務違反があり債務不履行責任を負うとともに、不法行為上の過失も存するから不法行為責任も負うというべきである。
(2)元請会社Y3の(不法行為責任または)使用者責任
被控訴人Y3社は、上記のとおり、下請会社である被控訴人Y4に対し、個別の工事に関して安全指示書のやり取りや安全衛生の手引の交付によって、安全帯(一丁掛けのもの)の着用、使用に関する指示を具体的に行い、かつ、週に2回程度訪れて遵守状況の確認を行っていたものであり、被控訴人Y4社は、この指示に基づき、その下請会社である被控訴人Y1社に対し、同様の具体的な指示を行っていたものであって、この指示は、被控訴人Y1社を通じてその作業員に対しても及んでいたことからすれば、被控訴人Y3社と被控訴人Y1社の従業員との間には、特別な社会的接触の関係を肯定するに足りる指揮監督関係があったものということができる。そして、本件作業においては、安全帯、取り分け二丁掛けの安全帯の着用とその徹底が求められるべきであったことは、すでに説示したとおりであるところ、被控訴人Y3社は、使用する安全帯は一丁掛けのものでも安全確保は十分であるとの誤った認識の下に、その使用の徹底を被控訴人Y4社及びその下請会社の被控訴人Y1社を順次通じてその従業員である控訴人X1に指示していたと認められるから、被控訴人Y3は、控訴人X1に対し、安全配慮義務違反があり債務不履行責任を負うとともに、不法行為上の過失も存するから不法行為責任も負うというべきである。
4. まとめ
以上のように、直接の不法行為をなした者(または会社)以外に対しても、請負契約の関係にあろうとも、実質的な指揮監督関係が認められるならば、使用者責任を問いうることがあることが分かった。
これらは、今後の被害者救済に資する判例であると考える。
(令和5年8月作成: 弁護士・弁理士 古莊 宏)