事務所報 発行日 :令和5年8月
発行NO:No51
発行:バリュープラスグループ
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【1】登録可能な商標の拡充について

文責:弁護士・弁理士 溝上 哲也

1. 2023年商標法及び不正競争防止法の改正

 令和5年3月10日に閣議決定された、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」は同年6月7日に可決・成立し、同月14日に法律第51号として公布されました。この法律においては、商標法分野において、次のような登録可能な商標の拡充の制度が導入され、これに伴う不正競争防止法の改正がなされました。この法律は、来年(令和6年)の6月14日までの政令で定める日から施行されます。

①コンセント制度の導入
 他人が既に登録している商標と類似する商標は登録できないが、先行商標権者の同意があり出所混同のおそれがない場合には登録可能にする。
 上記により登録された商標について、不正の目的でなくその商標を使用する行為等を不正競争として扱わないこととする。

②他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和
 自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標として利用できるよう、氏名を含む商標も、一定の場合には、他人の承諾なく登録可能にする。

 本稿では、来年の改正法及びそれに伴う政令の施行により利用が可能となる”登録可能な商標の拡充制度”について、その概要を利用者の視点から説明したいと思います。

2. 先行類似登録が有る場合に拒絶される従来の制度とその改正について

 日本の商標法では、商標登録出願日前の他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、指定商品・指定役務を同一または類似とする商標については、登録を受けることができないとされています(商標法4条1項11号)。この規定は、①先行登録商標の権利者の保護という私益や②商品・役務の出所混同の防止という公益を図ったものと言われています。
 ところが、米国・欧州・中国・韓国等の諸外国では、他人の先行登録商標に抵触する商標が出願された場合でも、先行登録商標の権利者の同意等の一定の条件があれば両商標の併存登録を認める制度(コンセント制度)が導入されています。これは、同意により私益を保護する必要がなくなることを重視したものと考えられています。
 このように日本法にコンセント制度がないことは、昨今、国際化が更に進展していることにそぐわないのではないかと問題にされるようになり、外国企業との間のグローバルなコンセント契約の締結が困難になっている等の課題が指摘されていました。
 そのため、今回の商標法改正により、国際的な制度調和を図り、利用者のニーズに答えるため、日本でもコンセント制度が導入されることとなりました。

3. 氏名を含む商標にかかる従来の制度とその改正について

 商標法では、従来、他人の氏名を含む商標について、その他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないとされ(商標法4条1項8号)、審査基準においては、この規定の立法趣旨が人格権の保護にあるとされていることから、「他人」とは、外国人を含む現存する者で、文言どおり知名度を問わないものと解釈され、「自己の氏名等と他人の氏名等が一致するときは、その他人の承諾を要するものとする。」とされていました。そして、自己の氏名が例えば電話帳にたくさん掲載されているような場合には、その全ての人から承諾を得なければならず、創業者やデザイナー等が自己の氏名により事業を開始し、その後、有名になってブランド化したような場合に商標登録の障壁になっているという不都合が指摘されていました。
 ところが、米国、欧州等の諸外国では、他人の氏名を含む商標について、知名度を要件とする登録制度がありましたので、国際的な制度調和や企業のニーズの観点からも、従来の商標法4条1項8号の改正が求められ、今回の商標法改正により、他人の氏名を含む商標の登録要件が、次のとおり、緩和されることとなりました。

【商標法4条1項8号】
他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの

 すなわち、従来は「他人の氏名」であれば特に知名度等のない方の氏名を含む場合であっても商標登録ができなかったところが、今回の改正により、「他人の氏名」であっても、商標の使用をする商品・役務の分野で需要者に広く認識されていない氏名であれば、これを含む商標も商標登録をすることができることとなりました。
 また、このような知名度が認められない他人の氏名を含む商標についても、「政令で定める要件に該当しないもの」については登録不可能とされました。現時点では、政令がまだ定められていませんので、「政令で定める要件」の具体的内容は不明ですが、産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会の報告書「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」では、出願人側の事情を考慮する文言を入れるべきと議論され、具体的には、出願人が、出願商標中に含まれる氏名を使用するに当たって、濫用的と認められるなど出願人に正当な理由が認められない場合には、商標登録を受けることができないとされる見込みです。

4. 今後の弊所の取り組みについて

 弊所では、今回の商標法分野の改正に対応して、先行登録が拒絶引例となりそうな場合には、改正後のいわゆるコンセント制度を利用することを視野に入れた出願戦略を立てたり、今後に制定される政令の内容をフォローした上、これまでブランド化ができなかったデザイナーや美術工芸家の氏名を含む新規出願に取り組んだりして、今回の改正法を商標出願業務に生かしていきたいと考えております。

(令和5年8月作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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