事務所報 発行日 :令和5年1月
発行NO:No50
発行:バリュープラスグループ
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【2】近年の商標の判例について(その12)

文責:弁理士 山本 進

 平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。
 小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
 旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で12回目となりますが、今回は、令和1年10月~令和2年3月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

1. R1.11.26 知財高裁 令和元年(行ケ)10086 商標審決取消請求事件

 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/067/089067_hanrei.pdf

 第11類「ランプシェード」を指定商品とし、ランプシェードの立体的形状からなる商標について、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる(商標法3条2項該当)として、無効審判の請求を棄却した審決が維持された事例。
 商標法3条2項の適否が争点となったが、本件商品の立体的形状は、ヘニングセンがデザインした世界のロングセラー商品であり、そのデザインが優れていること及び本件商品は被告が製造販売元であることを印象づけるような広告宣伝が継続して繰り返し行われた結果、本件商標の登録出願時までに、本件商品が日本国内の広範囲にわたる照明器具、インテリアの取引業者及び一般消費者の間で被告が製造販売するランプシェードとして広く知られるようになり、本件商品の立体的形状は、自他商品識別力を獲得するに至ったものと認められると判断された。

2. R1.12.26 知財高裁 令和元年(行ケ)10104 商標審決取消請求事件

 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/143/089143_hanrei.pdf

 牛の図形と「EMPIRE」及び「STEAK HOUSE」の文字からなる本願商標は、「EMPIRE」の文字を標準文字で表してなる登録商標と類似するとして、商標登録を拒絶した審決が維持された事例。
 本願商標の構成中、「STEAK HOUSE」の語は「ステーキ専門店」を表示する語として一般に用いられ、これが店名の一部に含まれる場合はこの語を除いて当該店名が略称される場合があることも普通であるから、「STEAK HOUSE」の文字部分は自他役務識別標識としての機能が微弱であって、本願商標は「EMPIRE」の文字部分が、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められると判断された。

3. R2.1.28 知財高裁 令和元年(行ケ)10078 $2009商標審決取消請求事件

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/219/089219_hanrei.pdf

 第21類「Utensils and containers for household or kitchen use」等を指定商品とする登録商標について、同商標の使用の事実が認められるとして商標登録を取り消した審決を取り消した事例。
 被告は、第三者による本件商標の使用を安易に商標権者による使用と同視してはならず、本件の事案において商標権者が商標の使用をしたというためには、商標権者が、第三者と締結した販売代理店契約に基づき第三者が商標権者を代理して日本国内で販売することを契約上認識していることが必要であると主張したが、原告から提出された証拠により立証された事実からすれば、原告は、フランスに在住する日本人が運営するオンラインショップに対し、日本において消費者に販売されることを認識しつつ本件商標を付して本件商品を譲渡し、当該オンラインショップが本件商標を付した状態で日本の消費者に対して本件商品を譲渡した事実を推認することができるし、日本国内における本件商品の譲渡は商標権者の意思に基づく本件商標の使用と認められるから、それ以上に、被告が主張する契約上の認識なるものを、商標法50条の判断において要求する根拠はないと判断された。

4. R2.2.26 知財高裁 平成31年(行ケ)10059 商標審決取消請求事件

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/268/089268_hanrei.pdf

 原告の有する登録商標「COCO」につき、本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていることを証明したものと認められるとして、商標登録を取り消した審決を取り消した事例。
 審判段階では主張・立証しておらず、本件訴訟において初めて提出された電子メール及びその添付ファイルの証拠について、それらが原告主張の日時に送受信されたことが認められるとして、原告が、要証期間内に、日本国内において、本件商標と社会通念上同一と認められる標章を付したトートバッグを、韓国の会社から輸入し、日本の小売店に販売したことが認められると判断された。

5.R2.3.19 知財高裁 令和元年(行ケ)10152 商標審決取消請求事件

 https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/344/089344_hanrei.pdf

 第5類「サプリメント」等を指定商品とし「ベジバリア」の文字と「塩・糖・脂」の文字を上下に二段書きした態様に本願商標は、「塩糖脂」の文字よりなる引用商標とは類似しないとして、拒絶査定不服審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。
 本願商標の「塩・糖・脂」の部分は、「・」が存在することもあって3つの文字がそれぞれ独立し、「塩」は塩分を、「糖」は糖分を、「脂」は脂肪分を意味する一般的、普遍的な意味を有する文字として認識されるものであるから、本願商標からは「ベジバリア 塩・糖・脂」全体として又は「ベジバリア」の部分としてのみ自他識別標識としての称呼・観念が生じると判断された。

(令和4年12月作成: 弁理士 山本 進)


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