事務所報 発行日 :令和5年1月
発行NO:No50
発行:バリュープラスグループ
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【1】特許庁関係手続における押印の見直しについて

文責:弁護士・弁理士 溝上 哲也

1. 特許庁における押印見直しの経過

 新型コロナウイルス感染拡大防止・予防のための新しい生活様式への移行、今後急速に発展するデジタル社会への対応、行政手続の更なる利便性向上を目的として、特許庁では、令和2年7月17日に閣議決定された「規制改革実施計画」に基づき、これまで法令等により押印を求めていた手続についての見直しの検討が行われました。その検討結果を踏まえ、令和2年12月28日、特許庁関連の手続を規定する特許法施行規則等を含む「押印を求める手続の見直し等のための経済産業省関係省令の一部を改正する省令」が公布・施行され、一部の手続を除き、押印が不要となりました。そして、特許登録令を含む「押印を求める手続の見直し等のための経済産業省関係政令の一部を改正する政令」及び「特許登録令施行規則等の一部を改正する省令」が公布され、令和3年6月12日以降に特許庁に提出する書面において、新たに一部手続の押印が不要となりました。
 他方、「押印を存続する手続」については、これまで認められていた特許庁への届出印の押捺による方法では偽造による被害が大きいとして、実印の押捺が求められることになりました。さらに、在外者等の署名についても、署名だけではなく,本人確認ができる措置も求められることになりました。
 このような特許庁関連手続における押印等の見直しは、実務上においても留意しなければならないことが生ずるので、以下、本稿において解説致します。

2. 特許庁手続における押印等の見直しの全体像について

 特許庁手続では、提出書面について原則的に押印を求めないこととし、偽造の被害が大きい手続についてのみ押印を存続させる方向で見直しが行われました。その結果、下記の一覧表に記載するとおり、特許庁提出書面全体(797種)の内、「押印を求める手続書面」は33種類のみになりました。また、「押印を廃止した手続書面」(764種)の内、「PCT出願関係手続書面」74種類については、条約の規定に基づいて署名等が必要とされたものの、委任状等の666種類の手続書面の押印は、令和2年12月に廃止され、権利移転登録に付随する手続補正書の手続書面など24種類の手続書面の押印は、令和3年6月に廃止されました。
 なお、押印が不要とされた手続について、これまでと同様に押印を行った書面を提出しても手続上有効な書面と扱われます。また、条約で署名等が求められている手続については、署名は、自筆に限らず、イメージファイルの印刷による申請も可能で、法人の署名は代表取締役だけでなく代表者から署名をする権限を付与されている者によるものも可能とする運用となっています。

特許庁HPより引用
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/madoguchi/info/oin-minaoshi.html

3. 押印を存続する手続について

 押印を存続する手続の書面は、出願係属中の権利に関する手続書面と特許権等の移転登録に関する手続書面があり、本人確認のため,これまでの運用より要件が加重されています。
 具体的には、次のような書面が含まれます。

(1)出願人名義変更届に添付する書面
 ①権利の承継を証明する書面、②持分証明書、③会社分割承継証明書、④同意書等がこれに該当します。これらの書面に「実印」を押印すると共に「印鑑証明書」の提出が必要となりました。また、譲渡人が在外者の場合は、「譲渡人」の譲渡意思を証明する書類として、「署名」及び「署名証明書」等の提出が必要です。従前の案件で印鑑証明書により本人の印であることが確認された実印を使用する場合は、実印に変更がない限り、その旨を記載することにより、都度の印鑑証明書の提出は不要です。

(2)氏名変更届及び住所変更届
 特許等を受ける権利を有する者本人が変更届を提出する場合には、これらの変更届に名義人(申請人)の「実印」での押印が必要で「印鑑証明書」の提出が必要となりました。
 なお、弁理士が代理人として、委任者である特許出願人等の氏名及び住所を変更するために申請する場合には、特許出願人等の押印は不要です。

(3)特許権等の移転登録又は権利設定申請に添付する書面
 ①譲渡証、②遺産分割協議書、③会社分割承継証明書、④同意書、⑤使用権設定契約証書、⑥質権設定契約証書等がこれに該当します。これらの申請に添付する書面には、委任状、履歴事項全部証明書等官公庁が作成したものを除き、全て「実印」で押印すると共に「印鑑証明書」の提出が必要となりました。

(4)登録名義人表示変更登録申請に添付する書面
 これらの申請を登録名義人本人が行う場合は、申請書に名義人(申請人)の「実印」での押印が必要で「印鑑証明書」の提出が必要となりました。
 なお、弁理士が、登録名義人の代理人として、登録名義人表示変更登録申請をする場合には、申請書には登録名義人のみならず弁理士の押印も不要です。

4. 委任状について

 今回の見直しにより、代理人が提出する個別委任状も包括委任状も、委任者と受任者との間で合意し、作成されたものであり、代理人が自己の責任において提出することになるため、特許庁では、疑義がない限り、押印・署名がなくても真正な委任状として取り扱うこととなりました。また、押印がなく全てタイプで印字されていても受理されることとなりました。ただし、PCT国際出願関係手続については、「条約の規定に基づいて署名等が必要な手続書面」に該当するため、押印又は署名のない包括委任状は、援用できないので、包括委任状に「すべての国際出願に関する一切の件」といった文言を入れた上で、押印又は署名しておくことが必要です。

5.実務上の留意点について

 上記の見直しは、従来の実務を大幅に変更するものであり、各案件を処理している弁理士としてもその取扱を十分に確認して、問題が生じないように配慮していく必要があります。
委任状に出願人の押印や署名が不要となっても、依頼者と代理人委任関係を証する書面としての意義が失われるわけではなく、依頼者の正確な住所や商号の表示を確認するためにも、双方のやり取りの結果、委任状が作成されることが重要と考えています。このような観点から、弊所では最初に案件をご依頼頂く際には、依頼者に委任状用紙を送付して、これを提出してもらうという過程をとることを原則としたいと考えています。その場合でも用紙の送付と作成した委任状の受領をデータのやり取りで行うなどい見直しによる簡便な取扱を享受できるものと考えています。
 また、従来、出願人名義変更届において印鑑証明書が不要だったものが、その提出を求められるようになったことについては、法人設立前の出願のように登録時点で名義変更を予定している場合には、印鑑証明書の提出できる住所で出願しなければならないといった制約や配慮も必要になってきます。
 弊所においては、これらの問題点を含めた見直しの内容を十分に把握して、迅速かつ確実な業務処理を行っていく所存です。

(令和4年12月作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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