事務所報 発行日 :令和2年8月
発行NO:No45
発行:バリュープラスグループ
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【3】論説:近年の商標の判例について(その7)

文責:弁理士 山本 進

 平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。   弊職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。   旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で7回目となりますが、今回は、平成29年6月~平成29年11月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

1) H29.6.14 知財高裁 平成28(行ケ)10227  商標 審決取消請求事件

「JIS」の標準文字よりなり、第43類「飲食物の提供」等を指定役務とする出願について、商標法4条1項6号に該当するとして、登録を拒絶した審決が維持された事例。  「JIS」は、日本工業規格を表す標章として、本願の指定役務の需要者を含む我が国の国民一般に広く認識されているから、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なもの」に該当し、かつ、本願商標は引用標章と類似するものと判断された。

2)H29.7.19 知財高裁 平成28(行ケ)10245  商標 審決取消請求事件

「南三陸キラキラ丼」の文字よりなり、第43類「南三陸産の海産物を使用した海鮮丼物の提供」等を指定役務とする出願について、商標法4条1項10号に該当するとして、登録を拒絶した審決が維持された事例。  本願商標と同一の「南三陸キラキラ丼」の文字よりなる引用商標2は、本願の出願時点で、南三陸町地域を中心とする前記役務の提供店の団体の商標として、少なくとも宮城県及びその近隣地域の需要者の間に周知になったものと認められると判断された。

3)H29.9.14 知財高裁 平成29(行ケ) )10049  商標 審決取消請求事件

第44類「助産,医業」等を指定役務とする「Advanced Midwife/アドバンス助産師」の文字よりなる出願商標について、商標法4条1項7号には該当しないとして、登録を拒絶した審決を取り消した事例。  「アドバンス助産師」は、既に助産師資格を持ち、一定の助産実践能力を有する者を「アドバンス助産師」と認証するものであり、本願商標は助産師でない者を「助産師」と称するために出願されたものではないから、国家資格等の制度に対する社会的信用を失わせるおそれはなく、公序良俗を害するおそれがある商標ということはできないと判断された。

4)H29.10.25 知財高裁 平成29(行ケ)10053  商標 審決取消請求事件

「千鳥屋」の文字よりなる本件商標について、「チドリヤ」及び「CHIDORIYA」の文字よりなる引用商標1、2と類似するとして、無効審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。  我が国において、外来語以外でも同一語の漢字表記と片仮名表記又はローマ字表記が併用されることが多く見られる事情があり、「千鳥屋」をローマ字で表記することも一般的に行われていることが認められることを考慮すると、文字種が異なることは両商標が別異のものであることを認識させるほどの強い印象を与えるものではないと判断された。

5)H29.11.14 知財高裁  平成29(行ケ)10109  商標 審決取消請求事件

本件商標「MEN’S CLUB」について、原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとして、無効審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。   本件商標の指定商品「男性用化粧品」は、原告の業務に係る雑誌(男性ファッション誌)の対象として需要者が共通すること等を総合的に考慮すれば、本件商標を指定商品に使用した場合、当該商品が、原告あるいは原告と緊密な営業上の関係を有する者の業務に係る商品であると誤信され、商品の出所について誤認を生じるおそれがあると判断された。


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