事務所報

発行日 :令和4年8月
発行NO:No49

発行:バリュープラスグループ

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【2】論説:近年の商標の判例について(その11)

文責:弁理士 山本 進

 

    平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。

 小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。

 旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で11回目となりますが、今回は、令和1年5月~令和1年9月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

 

1)H31.5.30 知財高裁 平成30(行ケ)10176 商標審決取消請求事件

 「リブーター」の標準文字よりなる商標は、当該商品が再起動機能を有する装置などであることを理解させるものであるとして、商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性を認め、無効審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。

 コンピュータやルーター等の機器を再起動する装置が実際に販売されており、このような再起動機能を有する装置を「リブーター」と呼ぶ例が認められることから、本件商標は、かかる商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示する語と認められると判断された。

2)R1.7.3 知財高裁 平成31(行ケ)10004 商標審決取消請求事件

 第12類「Motor vehicles.」(自動車及び二輪自動車)を指定商品をとする「EQ」の欧文字よりなる商標について、商標法3条2項の適用を認め、拒絶査定不服審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。

 一般に用いられる書体で「EQ」と横書きしてなる商標は「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」に該当して登録を受けることができないのが原則であるが、本願商標については、自動車に関心を持つ取引者・需要者に対し、集中的に広告宣伝が行われたということができ、原告の電動車ブランドを表すものとして、本願商標から原告との関連を認識することができる程度に周知されていたことが認められると判断された。

3)R1.7.24 知財高裁 平成31(行ケ)10017 商標審決取消請求事件

 第19類「コンクリート製杭」を指定商品とし、下部に3箇所の節部を設けた円柱状の立体的形状からなる商標について、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものに該当するとして、登録を拒絶した審決が維持された事例。

 商標法3条2項の適否が争点となったが、本願商標の需要者・取引者が本願商標の立体的形状に接したときに原告商品を想起することがあるとしても、それは原告の提案する各工法との関連においてであると考えられるのであって、原告工法の技術的優位性から独立して、本願商標の立体的形状自体が自他商品識別力を獲得していると認定するまでには至っていないと判断された。

4)R1.8.7 知財高裁 平成31(行ケ)10037 商標審決取消請求事件

 第14類「身飾品」等を指定商品とし、「KENKIKUCHI」の文字を含む図形からなる出願商標について、他人の氏名を含む商標であってその他人の承諾を得ているものではないとして、登録を拒絶した審決が維持された事例。

 ハローページに掲載された「菊池健」という氏名の一般人との関係で、商標法4条1項8号を適用することの是非が争点となったが、同号の立法趣旨は第三者の人格的利益の保護にあるから、原告商標がジュエリーブランド「ケンキクチ」のロゴとして一定の周知性を有しているといったことは、8号該当性の判断を左右するものではないと判断された。

5)R1.9.18 知財高裁 平成31(行ケ)10033 商標審決取消請求事件

 第37類「建設工事」等を指定役務をとする「アンドホーム」の文字よりなる登録商標について、同商標の使用の事実が認められるとして、「建設工事」についての商標登録を取り消した審決を取り消した事例。

 本件商標の通常使用権者は「アンドホーム」の名称で工事請負契約を締結し、工事請負契約書を注文者に交付しているから、その後、通常使用権者が実際に工事を開始した時点では他の名称に屋号を変更するに至ったとしても、契約書に表示されていた標章に対する業務上の信用が直ちに保護に値しなくなるものではなく、要証期間内に取消対象役務である「建設工事」について本件商標を使用したと認められると判断された。

以 上

 

 (令和4年8月作成: 弁理士 山本 進)


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