事務所報

発行日 :令和4年8月
発行NO:No49

発行:バリュープラスグループ

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【3】応用美術と「美術の著作物」 ~ タコの滑り台をめぐって

文責:弁護士 古莊 宏

1.はじめに

 全国の児童公園等で親しまれているタコの滑り台について、判例のご紹介をさせて頂きます。

 

2.事案の概要

 原告(「前田環境美術株式会社」)は、訴外前田屋外美術株式会社(以下、「訴外前田商事」という)が制作したタコの滑り台が著作物に該当し、被告(「株式会社アンス」)のタコの滑り台の製作行為(2基分)に対し、訴外前田商事から譲り受けた著作権を侵害していると主張し、損害賠償を求めた事件です。 

 東京地裁と知財高裁で争われましたが、主な争点は、原告側のタコの滑り台に、「美術の著作物」該当性が認められるかという点でした。

 

3.「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)該当性

 「美術の著作物」とは、絵画や彫刻のような形状や色彩によって平面的または立体的に表現され、美的鑑賞の対象となる著作物をいいます。

 ここで、「美術の著作物」に一品制作の美術工芸品が含まれることは、明文(同法2条2項)で明らかですが、量産型の応用美術の場合、「美術の著作物」に含まれるのでしょうか。

 量産型の応用美術が、「美術の著作物」に含まれるかという判断基準として、概ね3つの考え方に分かれるように思います。すなわち、①純粋美術と同視できるかという厳格な考え方、②実用的機能から分離可能な部分に創作性が認められるかという中間的な考え方、または③一般の著作物と同様に表現に創作性が認められるかという緩い考え方です。

 本件タコの滑り台についての判断基準として、②の中間的な考え方が採用されています。また、東京地裁の判断基準の考慮要素が、知財高裁において、若干の修正を加えられている点も興味深いです。

(1)東京地裁令和3年4月28日

 ア 美術工芸品(同法2条2項)該当性

 まず、判旨は、タコの滑り台が、主に遊具として子供の遊び場を提供する目的を有し、絵画・版画・彫刻のような主に鑑賞目的を有しているとまではいえないとし、美術工芸品(同法2条2項)には該当しないことを述べています。

 イ 応用美術に関する「美術の著作物」(同法10条1項4号)該当性

 次に判旨は、ゴナ書体事件(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)を引用しながら、『応用美術のうち、「美術工芸品」以外のものであっても、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものについては、「美術」「の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)である「美術の著作物」(同法10条1項4号)として、保護され得ると解するのが相当である』と述べ、以下、当該部分分離できるかを検討しています。

(ア)タコの頭部を模した部分

 タコの頭部を模した部分は、最も高いところにあって、頭部に設置された開口部が、滑り降りるスライダーをタコの頭部を模した部分に接続するために不可欠な構造となっていることから、滑り台の実用目的に必要な構成そのものであるとしています。また、タコの頭部を模した部分は、落下防止機能を有しており、隠れん坊で遊べるようにしている点も述べつつ、当該部分は分離して把握できないとしています。

(イ)タコの足を模した部分

 タコの足を模した部分は、スライダーとして利用者に用いられているので、滑り台としての機能を果たすに当たり欠くことのできない構成部分であるとして、当該部分は分離して把握できないとしています。

(ウ)その他の空洞(トンネル)部分や、全体の形状についても、同様に、当該部分は分離して把握できないとしています。

(2)知財高裁令和3年12月8日

 知財高裁は、原告の美術工芸品(同法2条2項)の主張を排斥したうえで、タコの頭部を模した部分に関して、天蓋部分については、滑り台としての実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して把握できるとして、当該天蓋部分の分離可能性を認めています。もっとも、当該天蓋部分の形状は、頭頂部から後部に向かってやや傾いた略半球状であり、タコの頭部をも連想させるものではあるが、その形状自体は単純なものであり、タコの頭部の形状としても、ありふれたものであるとして、創作性を認めませんでした。

4.本件タコの滑り台の写真 (最高裁HPより引用)

    

原告側の滑り台(正面) 被告側の滑り台1(正面) 被告側の滑り台2(正面)

            

原告側の滑り台(右側面) 被告側の滑り台1(右側面) 被告側の滑り台2(右側面)

5.まとめ

 つい先日、最高裁でも、原告側は敗訴してしまいました。原告側の元社員には、タコの滑り台の写真集まで出版された方までおられたようで、原告側の思いからすれば、とても残念な結果となりました。もっとも、タコの滑り台は、全国の公園等に遊具用として設置されていることから、裁判所としては、「美術の著作物」該当性まで認めるのに、やや躊躇したのかもしれません。分離可能性が認められる部分について、どの程度の創作性があればありふれたと認められないかは、今後の応用美術の判例集積が待たれます。また、タコを模した滑り台を最初に創作したのであれば、物品名を「滑り台」として意匠登録をすることが可能でした。新設に際して知財相談をされるのが得策であったと思われます。

なお、全国には、イカの滑り台もありました。同様な判断が下されるものと思われます。

 

(恵比寿新聞HPより引用)

 

 (令和4年8月作成: 弁護士 古莊 宏)


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