事務所報 発行日 :令和4年1月
発行NO:No48
発行:バリュープラスグループ
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【2】論説:近年の商標の判例について(その10)

文責:弁理士 山本 進

 

    平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。

 小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。

 旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で10回目となりますが、今回は、平成30年10月~平成31年4月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

 

1)H30.12.20 知財高裁 平成30(行ケ)10085 商標審決取消請求事件

 「Violet」の文字よりなる本件商標と、「ヴィオレ/Violet」の文字よりなる引用商標は類似するとして、拒絶査定不服審判の審決が維持された事例。

 「Violet」は英語であると共にフランス語でもあり、フランス語の読みは「ヴィオレ」であるが、引用商標は、上段が振り仮名と理解されることで下段の欧文字部分につき英語読み「バイオレット」は生じないとしても、主要な構成要素である「Violet」の欧文字部分が共通しており、花の「すみれ」や「すみれ色」ないし「紫色」の共通の観念が生じることから、両商標は相紛らわしいといえると判断された。

2)H31.1.29 知財高裁 平成30(行ケ)10059 商標審決取消請求事件

 「QR コード」及び「QR Code」の文字を上下に二段書きした登録商標について、使用の事実が認められるとして、不使用取消審判請求を不成立とした審決が維持された事例。

 自他商品識別機能を発揮する態様で使用されていたかが争点となったが、本件商標は2次元コードの規格の一種と認識されることがあるとしても、被告は「QRコードについては()デンソーウェーブの登録商標です。」との表示をし、商標登録表示を付して、登録商標であることを広く需要者に知らせており、かつ、本件使用商標は、他の記載とは独立して表示されており、また僅かではあるが図形化され、赤色で表示されていることなどを考慮すると、本件商品(アプリケーションソフトウェア)についての識別標識として使用されているものと認められると判断された。

3)H31.2.27 知財高裁 平成30(行ケ)10143 商標審決取消請求事件

 「建物の売買」等を指定役務をとする「LOG」の文字からなる登録商標について、「LOG」は当該指定役務の質又は提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものであるとして、無効審判請求を不成立とした審決を取り消した事例。

 査定時において、「LOG」の語は、本件役務の提供の用に供する建物の種別について、ログハウス、ログキャビンなどの丸太で構成される建物又は丸太風の壁材で構成される建物という一定の内容であることを、本件役務の需要者又は取引者に明らかに認識させるものということができると判断された。

4)H31.3.12 知財高裁 平成30(行ケ)10121 商標審決取消請求事件

 第31類「とうもろこし」を指定商品とする「キリンコーン」の文字よりなる本件商標は、「キリン」、「KIRIN」又は「麒麟」の文字よりなる引用商標とは類似するとして、商標法4条1項11号該当性を認め、無効審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。

 「コーン」が「とうもろこし」を意味する英語「corn」の読みを片仮名で表したものであることはわが国において広く知られているのに対し、「キリン」は指定商品との関係では「コーン」よりも識別力が高く、需要者に対して強く支配的な印象を与えるから、「キリン」の文字部分を要部として観察することは許されると判断された。

5)H31.3.26 知財高裁 平成29(行ケ)10207 商標審決取消請求事件

 四足動物が跳び上がるように前足と後ろ足を大きく開いている様子を描いた図形からなる本件商標について、PUMAブランドの商品に使用されているプーマのシルエット図形との関係で商標法4条1項15号該当性を認め、無効審判の請求を不成立とした審決を取り消した事例。

 本件商標と引用商標は、内部に白線による模様があるか否かの点などにおいて外観上の差異は認められるものの、内部の細かな模様は左程目立たないもので、全体のシルエットや外観全体の印象は相当似通ったものであるから、本件商標がTシャツ、帽子等の商品に使用された場合、原告又は原告と一定の緊密な営業上の関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると判断された。

以 上

 

 (令和3年12月作成: 弁理士 山本 進)


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