事務所報 発行日 :令和3年8月
発行NO:No47
発行:バリュープラスグループ
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【2】論説:近年の商標の判例について(その9)

文責:弁理士 山本 進

 

    平素より格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。

 小職は、審決取消訴訟を中心とした商標の判例要旨を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。

 旧溝上法律特許事務所の事務所報第39号からの通算で9回目となりますが、今回は、平成30年5月~平成30年9月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

 

1)H30.6.12 知財高裁 平成29(行ケ)10214 商標審決取消請求事件

「GUZZILLA」の文字よりなり、第7類「土木機械器具,農業用機械器具」等を指定商品とする本件商標について、「GODZILLA」の文字よりなる原告商標との間で出所混同が生じるおそれを認め、無効審判請求を棄却した審決を取り消した事例。

 本件商標の指定商品には「油圧式ジャッキ,草刈機」等も含まれるところ、これら比較的小型の機械器具については、本件商標を使用したときに、当該商品が、原告又は原告と緊密な営業上の関係がある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれが認められると判断された。

2)H30.6.21 知財高裁 平成30(行ケ)10001 商標審決取消請求事件

「ありがとう」の文字を標準文字で書してなる本願商標と、「ありがとう」と記した扇形表示物を左手に持つ招き猫の図形からなる引用商標は類似するとして、拒絶査定不服審判の請求を棄却した審決が維持された事例。

 引用商標の招き猫の図形部分と「ありがとう」の文字部分は、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認めることはできないから、図形部分と文字部分は、それぞれが独立して出所識別機能を有する要部であると判断された。

3)H30.7.25 知財高裁 平成30(行ケ)10005 商標審決取消請求事件

    被告が販売するランプシェードの立体的形状からなる商標は、需要者の間に広く認識されている商標に当たると認めることはできないとして、無効審判請求を認容した審決を取り消した事例。

 被告商品の販売状況、広告宣伝状況などに照らすと、約29年以上にわたり継続的に販売されていたことを考慮しても、そのランプシェードの立体的形状が、インテリアに関心のある一般消費者の間で広く知られるようになったと認めることはできないから、本件商標は商標法4条1項19号に該当するものではないと判断された。

4)H30.8.29 知財高裁 平成30(行ケ)10014 商標審決取消請求事件

    「TENRYU」の欧文字を標準文字で表した本願商標と、「天龍」の漢字よりなる引用商標は類似するとして、拒絶査定不服審判の請求を棄却した審決が維持された事例。

 わが国においては、漢字を同じ称呼のローマ字で表記することは一般的に行われているという事情を考慮すると、文字種が異なることによる本願商標と引用商標の外観の相違は、両商標が別異のものであると認識させるほどの強い印象を与えるものではないと判断された。

5)H30.9.6 知財高裁 平成30(行ケ)10035 商標登録取消決定取消請求事件

「MONTAGNE.」の文字よりなる本件商標と、「MONTAIGNE」の文字よりなる引用商標は類似するとして、本件商標の指定商品中の「かばん類,袋物」等について、異議申立による商標登録取消決定が維持された事例。

 本件商標からは「モンタグネ」「モンターニュ」の称呼が、引用商標からは「モンタイグネ」「モンテーニュ」の称呼が生じるといえるところ、本件商標と引用商標は、観念においては比較できないものの、外観及び称呼は相紛らわしいものであって、一般の消費者は必ずしも商標の構成を細部にわたって記憶して取引するとはいえないことから、本件商標と引用商標は時と所を異にして隔離的に観察した場合、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがあると判断された。

以 上

 

 (令和3年7月作成: 弁理士 山本 進)


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