事務所報 発行日 :令和4年8月
発行NO:No49
発行:バリュープラスグループ
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【1】民事裁判書類電子提出システムについて

文責:弁護士・弁理士 溝上 哲也

1.mintsとは何か?

 皆さんは、”mints”という略語を見聞されたことはありますか?

 ”mints”とは、日本の裁判所が裁判書類をオンラインで提出するために、今年4月21日から運用を開始した民事裁判書類電子提出システムの略語です。”mints”は、「MINji saibansyorui denshi Teisyutsu System」を正式名称とするもので、その利用により、一層、裁判手続のIT化が促進され,裁判手続の新しい時代を迎えることを示すものとして、「mint」のさわやかな語感をも意識して、命名されたとされています。

  令和4年4月21日に①甲府地方裁判所(本庁)及び②大津地方裁判所(本庁)で運用が開始され、同年6月28日に③知的財産高等裁判所、④東京地方裁判所知的財産部(民事第29部、民事第40部、民事第46部及び民事第47部)、⑤東京地方裁判所商事部(民事第8部)、⑥東京地方裁判所一般部(民事第5部及び民事第34部)及び⑦大阪地方裁判所知的財産部(第21民事部及び第26民事部)に運用裁判所が拡大されました。現在では、これらの裁判所で、当事者双方に訴訟代理人があり、双方の訴訟代理人が”mints”の利用を希望する事件に限って利用されています。

 本稿では、今年から運用が開始された”mints”について、その概要を利用者の視点から説明したいと思います。

2.mintsの法的根拠について

 裁判手続については、諸外国におけるIT化の進展が顕著となり、平成15年2月には「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」が施行されたため、平成16年の「民事関係手続の改善のための民事訴訟法の一部を改正する法律」によって、民事訴訟手続等のオンライン化を趣旨とする下記の民事訴訟法132条の10が制定されました。”mints”の法的根拠は、これに基づくものです。

 

 民事訴訟法132条の10・・・括弧書きを除く

  民事訴訟に関する手続における申立てその他の申述のうち、当該申立て等に関するこの法律その他の法令の規定により書面等[1]をもってするものとされているものであって、最高裁判所の定める裁判所に対してするもの[2]については、当該法令の規定にかかわらず、最高裁判所規則で定めるところにより、電子情報処理組織[3]を用いてすることができる。ただし、督促手続に関する申立て等であって、支払督促の申立てが書面をもってされたものについては、この限りでない。

 2 前項本文の規定によりされた申立て等については、当該申立て等を書面等をもってするものとして規定した申立て等に関する法令の規定に規定する書面等をもってされたものとみなして、当該申立て等に関する法令の規定を適用する。

 3 第1項本文の規定によりされた申立て等は、同項の裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に、当該裁判所に到達したものとみなす。

 4 第1項本文の場合において、当該申立て等に関する他の法令の規定により署名等[4]をすることとされているものについては、当該申立て等をする者は、当該法令の規定にかかわらず、当該署名等に代えて、最高裁判所規則で定めるところにより、氏名又は名称を明らかにする措置を講じなければならない。

 5 第1項本文の規定によりされた申立て等[5]が第3項に規定するファイルに記録されたときは、第1項の裁判所は、当該ファイルに記録された情報の内容を書面に出力しなければならない。

 6 第1項本文の規定によりされた申立て等に係る第91条第1項又は第3項の規定による訴訟記録の閲覧若しくは謄写又はその正本、謄本若しくは抄本の交付は、前項の書面をもってするものとする。当該申立て等に係る書類の送達又は送付も、同様とする。

 

  このように民事裁判のオンライン化の手続についての根拠規定は、平成16年には整備されていたのですが、その後、どのようなシステムで構築するかなどの面で紆余曲折があり、新型コロナが蔓延しだした令和2年になってようやく、MS-Teamsを採用したWeb会議による手続が全国的に導入されるようになったものの、裁判書類の提出は従来通りの書面の提出又はファクシミリの送信を前提とするものでした。しかし、今年になって最高裁判所は、書面をインターネット上で提出できるシステムの開発を完了して、4月下旬から本格運用を始め、上記のように裁判所や事件を限定しての試行がされることになったものです。そして、今年3月には、令和7年度までに提訴から判決まで、民事裁判手続きの全面オンライン化を目指す民事訴訟法の改正案が国会に提出され、全ての書類を対象とする本格的な裁判手続きのIT化が模索されています。

 

[1]書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。

[2]当該裁判所の裁判長、受命裁判官、受託裁判官又は裁判所書記官に対してするものを含む。

[3]裁判所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。)と申立て等をする者又は第399条第1項の規定による処分の告知を受ける者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。

[4]署名、記名、押印その他氏名又は名称を書面等に記載することをいう。

[5]督促手続における申立て等を除く。

3.mintsの主な機能と利用によるメリット

 ”mints”では、①ファイルのアップロードによる書面等の提出/直送、②相手方当事者がアップロードした書面等のダウンロード/印刷、③受領書の作成/提出(アップロード)ができます。対象となるのは、準備書面、書証の写し、証拠説明書、上申書など、下記の民訴規則3条1項によりファクシミリで提出することが許容されている書面です。ファクス送信が認められていない訴状・取下書・委任状などについては、引き続き、郵送か直接提出の必要があります。そして、ウェブサイト経由で書面の提出はできますが、民事訴訟法132条の10第5項により、書記官がプリントアウトしなければならず、その書面を事件記録に綴り、データでなく綴った書面が訴訟記録として扱われます。あくまで、現行法の範囲内で、提出・受領が”mints”でできるというものです。”mints”の利用により、これまで写しを含めて書面や書証を何部も印刷してきた手間が解消され、また書面に押印することも不要になるというメリットがあります。また、相手方が遠隔の地の代理人であっても、即時に送信ができるので、郵便の到着が遅くなっている昨今の事情からすると、手続の進行に寄与するものと言えます。なお、”mints”でアップロードする書面等は、PDFファイルの形式となりますが、同じシステム内でWordやExcelファイルを参考書面としてアップロードすることもできますので、裁判官が争点整理をしたり、判決起案をする際の省力化にも対応できるようになっています。

 

民事訴訟規則3条(裁判所に提出すべき書面のファクシミリによる提出)

 裁判所に提出すべき書面は、次に掲げるものを除き、ファクシミリを利用して送信することにより提出することができる。

 一 民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)の規定により手数料を納付しなければならない申立てに係る書面

 二 その提出により訴訟手続の開始、続行、停止又は完結をさせる書面(前号に該当する書面を除く。)

 三 法定代理権、訴訟行為をするのに必要な授権又は訴訟代理人の権限を証明する書面その他の訴訟手続上重要な事項を証明する書面

 四 上告理由書、上告受理申立て理由書その他これらに準ずる理由書

 2 ファクシミリを利用して書面が提出されたときは、裁判所が受信した時に、当該書面が裁判所に提出されたものとみなす。

 3 裁判所は、前項に規定する場合において、必要があると認めるときは、提出者に対し、送信に使用した書面を提出させることができる。

4.今後の弊所の取り組みについて

 弊所では、大阪地方裁判所知的財産部に係属している事件について、すでに”mints”の利用を始めていますが、”mints”の利用が可能な事件については、そのメリットを生かし、まだ利用ができない事件についても、Web会議システムの活用に積極的に取り組んで、民事裁判手続きのIT化に対応していく、所存です。

                    (令和4年8月作成: 弁護士・弁理士 溝 上 哲 也)


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