バリュープラスグループ事務所報 発行日 :令和2年1月
発行NO:No44
発行:バリュープラスグループ
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近年の商標の判例について(その6)

 平素は格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。

 平成25年1月1日以降、原則として月に1回、裁判所のホームページを閲覧し、審決取消訴訟を中心に、商標の直近の判例をフォローアップし、その中から関心を引いた判決を1件選び、要旨を短くまとめておく取り組みを続けてきました。

 業務が立て込んで忙しいときは、判例を読むこと自体ができない月もありましたが、幸いにしてこの取り組みが2ヶ月以上連続して中断したことはなく、約7年分の成果物が蓄積されました。

 そこで、事務所報第39号より、上記成果物を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。

 6回目となる今回は、平成28年10月~平成29年5月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

1)H28.11.7 知財高裁 平成28(行ケ)10096  商標審決取消請求事件

 商標法56条で準用する特許法153条2項所定の手続を欠くものと認められるとしても、審決を取り消すべき違法には当たらないと判断された事例。
 キリン協和フーズがキリンホールディングスから本件商標の使用につき黙示の許諾を受けていた事実は、審判手続において提出された証拠に基づいて容易に認定できることで、原告には反論の機会が実質的に与えられていたといえるから、審判官合議体が、被告が主張しない上記事実について原告に反論の機会を与えずに審理を進めたとしても、原告にとって不意打ちになるものではないと判断された。

2)H28.12.22 知財高裁 平成28(行ケ)10145  商標審決取消請求事件

 「くれないケアセンター」の文字よりなる本件商標と「くれない」の文字よりなる引用商標は、第44類「介護,介護に関するコンサルティング」等の指定役務においては類似するとして、商標登録の一部を無効とした審決が維持された事例。
 本件商標の「ケアセンター」という構成部分は、介護の提供場所を一般的に表示するものにすぎず、当該構成部分から役務の出所識別標識としての称呼、観念は生じないというべきで、「くれない」の部分が需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると判断された。

3)H29.2.28 最高裁第三小法廷判決 平成27(受)1876 不正競争防止法による差止等請求本訴,商標権侵害行為差止等請求反訴事件

 原判決中、本訴請求のうち不正競争防止法に基づく請求に関する部分及び反訴請求に関する部分を破棄し、原審に差し戻した事例。
 商標権侵害訴訟の相手方は、商標法4条1項10号を理由とする無効審判請求がないまま設定登録日から5年を経過した後は、同号該当をもって権利不行使の抗弁(商標法39条で準用する特許法104条の3)を主張することは、原則として許されないが、5年経過後であっても、商標権侵害訴訟の相手方が、自己の商品等表示として周知である商標との関係で、同号該当を理由として権利濫用の抗弁を主張することは許されるとの法律解釈を示した上で、原審摘示の事情のみをもって直ちに被上告人使用商標が商標法4条1項10号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たるとして本件各登録商標につき同号該当性を認めた原審の判断には、法令の適用を誤った違法があると判断された。

4)H29.3.23 知財高裁 平成28(行ケ)10208  商標審決取消請求事件

 「TOMATO SYSTEM」の文字よりなる本件商標と「TOMATO」の文字よりなる引用商標は、第9類「電子応用機械器具及びその部品」等の指定商品および第42類「電子計算機用プログラムの提供」等の指定役務においては類似するとして、不服審判の請求を棄却した審決が維持された事例。
 「SYSTEM」(システム)の語は,一般に「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体」を意味する語であり、情報処理の分野ではハードウェア又はソフトウェアの組合せを意味する語として用いられているから、出所識別表示としての機能がないか又は極めて弱いと判断された。

5)H29.5.17 知財高裁 平成28(行ケ)10191  商標審決取消請求事件

 第36類「建物の売買」等を指定役務とする商標「音楽マンション」について自他役務の識別性を認め、無効審判の請求を棄却した審決が維持された事例。
 本件商標は、音楽に何らかの関連を有する集合住宅という程度の極めて抽象的な観念は生じるものの、これには音楽が聴取できる集合住宅、音楽が演奏できる集合住宅、音楽家や音楽愛好家たちが居住する集合住宅など様々な意味合いが含まれるから、特定の観念が生じるとはいえず、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができないものとはいえないと判断された。

(令和1年12月作成: 弁理士 山本 進)


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