事務所報 発行日 :令和4年1月
発行NO:No48
発行:バリュープラスグループ
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【1】データの利活用について

文責:弁護士・弁理士 溝上 哲也

1.はじめに

 AI、IoT、ロボット、ビッグデータ等のデジタル技術の活用が進展する中で、企業の有するデータは、情報資産とも呼ばれ、競争力の源泉としての価値を増しています。デジタル技術とデータを活用することは、既存の製品やサービスの付加価値を高め、新たな事業領域を模索したり、新たなイノベーションを生み出したりする手段として、注目されています。これらの活用は、企業の事業環境を劇的に変化させることとなり、各企業においては、新たに付加価値を創出・獲得したり、新たな製品・サービスを生み出して競争力を強化するために、今後、取り組んでいく必要があります。

 「データの利活用」とは、社内に蓄積されたデータを自社内で利用したり、これを活用したりすることに加えて、データを他社へ提供または他社から提供を受けたりすることを意味します。データの利活用に際しては、そのデータが企業の営業秘密を含むものであったり、個人情報や知的財産権を含むものであったりするため、法令違反や権利侵害などが発生することのないように注意することが必要です。また、これまでの法律の規定ではこのようなデータの利活用に十分に対応できなかったため、不正競争防止法が改正され、他者への提供を想定した上で管理しているデータを「限定提供データ」と定義した上で、これに対する不正取得等を不正競争行為とする規定が整備されています。この改正法は、平成30年の通常国会で成立し、「限定提供データ」に係る事項については、令和元年7 月1日に施行され、不正にデータが流通した場合にも民事的措置が可能となっています。

 本稿では、これらの点を踏まえて、データの利活用に際して締結する契約の留意点について述べます。

2.利活用の対象となるデータの特定

 契約一般に言えることですが、契約対象のデータの特定がまず、重要です。どのようなデータを、誰が、どの程度保有しており、どの範囲(属性・分野・期間・地域等)で利活用可能であるのか等を特定することが不可欠です。データの種類と特性によって取り扱い上の留意点が異なることから、対象となるデータがどのような特性を有するのかを把握することも重要です。対象データに他社のデータが含まれる場合には、当該他社との契約等に基づいて管理を行う必要があり、また、対象データに自社又は他社の営業秘密や限定提供データ、または著作物性を有するデータや個人情報ないし匿名加工情報等の法的保護を受けるデータが含まれる場合には、関連法令を遵守するなど取り扱い上の留意点が増える可能性があるので、対象データの特定は、他の契約条項にも関連することになります。

 契約書の作成に際しては、これらを踏まえて、対象データを文言で表現することになりますので、対象となるデータが漏れなく表現されているか、対象とすべきでないデータが含まれていないか確認することが肝要です。

3.データ利活用の目的と目的外使用の禁止

 次に、データの提供を受けたり、提供をしたりする目的を契約上、明確に規定しておくことが必要です。提供先による提供データ使用の目的を定めるにあたっては、提供者としてはなるべく狭く、一方、提供先としてはなるべく広く、範囲を設定したいと考えがちであるので、まずは、サンプルデータの提供から契約交渉を開始し、提供先に実際にデータを使用させた上で、使用目的の特定を促し、本契約に移行することも考えられます。
 そして、データ利活用の目的を明確にした上で、データ提供先が提供データを自由に使用しないように、契約上、提供データの目的外使用を禁止することが重要です。また、目的外使用が行われる場合に備え、利用状況の報告義務や利用状況を監査できることを定めた上で、目的外使用が発生した場合の差止請求権、損害賠償請求権、解除権、契約終了時の提供データ廃棄義務等ついて規定しておくことも必要となります。

4.利活用データの利用条件

 データの提供先から提供データが漏えいしないように、契約において、秘密保持の義務を課することはもとより、一定の管理方法を義務付けるとともに、第三者提供の禁止等を規定することが重要です。管理方法については、提供先にデータ自体を提供し、提供先のサーバ上で当該データを管理させる方法と提供者のサーバや提供者が契約する他社クラウドで提供先にアクセス権限のみを付与する方法などがあります。第三者提供の禁止については、これ一切禁止する場合のほか、第三者提供について提供者の承諾を条件とする場合、必要に応じて一部の者への提供を認める場合、提供者の競合先等一部の者に対してのみ提供を禁止する場合等が考えられますが、第三者提供を認めるとしても、提供先に、提供先が提供者に対して負担している秘密保持や管理方法等に関する義務を、第三者にも負担させることを義務付けることが必要です。

5.派生データ・成果物についての取り決め

 提供データとそれに基づいて生成された派生データ・成果物との間に同一性が認められないケースでは、派生データの使用権限や成果物の帰属・使用権限について当事者間で何ら合意をしていない場合、提供者から提供先に対して、派生データや成果物の使用停止を求めることは困難です。また、提供先が、提供データを使用した結果何らかの発明等を創作した場合、その発明等は原始的には創作者である提供先のものとなってしまうので、提供先との契約によって、提供データに基づいて生じた知的財産権の帰属ないしその帰属について協議する義務やその権利の使用権限について、予め合意しておくことが重要となります。そして、これらの前提として、契約締結にあたっては、派生データや成果物の定義・範囲を確認しておくことも必要となります。

6.提供するデータの品質

 提供先から提供するデータの品質の担保を求められたり、あるいは、事後に当社が提供したデータの品質が悪かったとして責任追及を受けるリスクがあります。前者の場合、提供先との間で、当該契約におけるデータの品質について、十分議論の上、一定の保証・担保を行うのか否か、また、行うとして、どのような事項を保証・担保するかという点について、共通認識を形成し、契約で合意することが望ましいです。そうすれば、事後に責任追及を受けるリスクを軽減することにもなります。

 データの品質について保証を行う場合には、積極的に、データの正確性、完全性、安全性、有効性について保証する場合や、欠損率などの指標を設け、これについて保証をする場合、データの取得にあたって不適法な行為や故意による改ざんが行われていないことを保証をする場合等が考えられます。

7.契約終了時のデータ消去・廃棄

 一般的に、提供先との契約が終了した場合に、提供先が当該データを自由に使用できてしまうことを防止するために、提供先に対して、契約終了時の提供データの廃棄義務等を課しておくことが不可欠となります。そして、提供先が廃棄義務を履践したか否かについて、提供先や第三者に、提供先が廃棄義務を履践したことについて書面で証明を求めることも有効です。

                              (令和4年1月1日)


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